新たな脅威

O医師との話が終わり、病室へと戻った僕の頭はフル回転を始めた。

「粘液癌」

初めて聞くワードであったし、とても凶悪そうな名前に感じる。

そういえば、T病院に転院した直後、一人の医師がお腹を触って「あれ、しこりがないですね。」って言っていた。

そう僕のがんは大きかったのに、お腹にしこりがなかったのである。これは粘液化していたからであろうか。

そんなことを思い出しながら僕はウェブの検索を始めた。

最初にウェブ検索して出てきた資料は忘れもしない。これだった。

“大腸粘液癌の検討”

論文を読むときは最初と最後をまずざっと読む癖を持っているのだが、最後の結論に衝撃的な言葉が綴ってあった。

“ステージ2の症例についての5年生存率は大腸癌症例の71.7%に対し、粘液癌は39.0%と悪い”

頭がクラクラした。 

ステージ3から、ステージ2になって多少浮かれていた僕を、奈落に突き落とす数字である。

少し冷静になり論文をしっかり読んでみる。すると、1982年に発表された論文だということに気付き、一旦気持ちが落ち着いた。

そう、がん治療の進歩は目覚ましい。

最新医療に触れなければ、意味がないのだ。

日本語でウェブ検索していてもいまいちパリッとした情報が出てこない。僕は

Google Scholarで英語の論文を検索しはじめた。

すると、粘液癌についていくつかのことがわかってきた。

上行結腸にできやすい、若年に多い、通常の大腸がんよりも大きい・・・・。

こ・・・これは。

完全に僕のがんのことを指している。状況証拠だけ見れば、僕のがんは手術前から粘液癌を疑っていいレベルであった。

そして発症率は全体の10%前後と高くない稀ながんということもわかった。

調べていくと恐ろしいことが書いてあった。どうやら粘液癌は通常用いれらる抗がん剤が効きにくいという性質があるらしい※。

これには冷や汗をかかずにはいられない。

なぜなら最初のF病院では、大腸がんを切除することができないから、抗がん剤で小さくしてから切除を行う、という方針が立てられていたからだ。

あのままF病院にいたら、抗がん剤が効かないまま月日が流れ、もっと大変な状況になっていたかもしれないのである。

そう思うと寒気がした。

※この時点ではわからなかったが、粘液癌に対し奏効率の高い薬も出てきているので粘液癌の読者は安心してほしい。

その日、何時まで起きていただろうか。眠さ限界まで論文を読み耽った僕は、とりあえず3つの結論を得た。

まず、粘液癌における研究は世界各地でされているものの、予後が悪いか悪くないかという研究において、はっきりとした答えが出ていないこと。

そして粘液癌の予後が悪いと思われているのは、粘液癌の進行が他のがんよりも早くある程度進行した状態で見つかるからである、ということ。

あと、粘液癌はそもそもがん全体の50%以上が粘液化している様を指す、僕のがんの粘液化はギリギリ50%だった。

病理検査の書類にも、「粘液結節を形成した部分が半分ほどまで認められ粘液癌としましたが、通常の部分もかなり見られます。」といった、病理診断師も「うーん」と唸りながら書いたであろう文章が記載されていた。

なので、多分そんなに粘液粘液(ねんえきねんえき)していないということにした。

その日、僕は比較的安眠したことを覚えている。

敵を知ったことと、持ち前の前向き思考で、恐怖は和らいだのだと思う。

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