セカンドオピニオンとその後

「診察室の前で待っていてください。看護師から転院の手続きについて説明があります。」

O医師にそう告げられ、僕は「ありがとうございました。よろしくお願いします。」と一礼し診察室を出た。

家族から「よかったね。」と声をかけられる。

そう、本当によかった。

 

 

10分も経たないうちに看護師さんから呼び出しを受け、転院の手続きについて説明があった。前回の入院はドタバタしていてあれよあれよという間に決まったけど、どうやら今回はそうは行かないらしい。ベッドが空いていないのである。

入院費用にはベッド代というものがかかる。ベッド代は通常の健康保険でまかなえるものの、部屋やベッドの位置によって差額ベッド代というものが発生する。

例えば4人部屋の廊下側は無料だけど、窓側は一泊5000円かかり、個室になると3万5千円かかる。特別個室というものもあり、ドラマに出てくる社長室のような最上級の特別個室になると、一泊15万円を超えてくるのだ。

そして無料のベッドは空きが出にくく、値段が上がれば上がるほど空きが出やすくなる。長くなるかもしれない入院期間、やはり1日5000円以上払い続けるのはお財布に優しくない。

とはいえ、僕の場合はあまり時間の猶予がない。なぜならがんは既に大きく育ち、大腸は狭窄を起こしている。

手術をしないことにはこのまま点滴と経腸栄養剤のみでの生活を強いられる。(ちなみに僕の愛飲していた経腸栄養剤ラコールNF – ミルク味 はおいしい!)

背に腹は変えられないと、4人部屋の窓側、普通の個室、特別個室の一番下の等級、の優先順位で申し込みをした。

「いつになるか分かりませんが、ベッドが確保できたら入院の一日前に連絡します。」と看護師さんから話があった。

入院一日前に連絡とはずいぶんと急なものだな、と思いながら僕はT病院を後にした。

後に身を持って知ることになるのだけど、やっぱり治療っていうのは一筋縄ではいかなくて、最初にもらう入院計画書通りにはいかないこともある。

それに隣のベッドの会話など聞くと「うーん、やっぱり明日の退院はやめて、来週まで延ばしましょう。もう少し様子見させてください。」という主治医の言葉もそれなりの頻度で聞こえてくる。

また緊急性の高い患者さんを優先して入院させることもあるというのも聞いた。当然の措置だと思う。

いつベッドが空くか、未来を予想するのは病院サイドにとって難しいのである。

 

 

僕はいつもの病院に戻った。すると夕方くらいだったろうか、突然白衣の集団が病室へ乗り込んで来た。何やら奥のベッドから順番に患者と話をしている。そう、世に言う、回診というやつである。

僕の入院していた病院は大学病院であった為、教授総回診というものが週に1度あるのであった。僕にとっては初めての回診である。いままでは運良く検査などで逃れていただけらしい。

名前が呼ばれ僕の部屋のカーテンがざざっと開けられる。すると、見たことのない少しパーマをあてた白髪混じりのナイスミドルが立っている。後ろにはいつもの主治医のYさんとT医師、その他よく知らない医師っぽい人たちが勢揃いしている。

そのナイスミドルが僕の足側のベッドガードに両手をかけ、さわやかな笑顔と口調で「消化器内科、教授のナイスミドルです。調子はどうですか?」と声をかけてくる。

「ね、いまは食事制限中だけどね、ストーマつけてね、化学療法がんばりましょうね。」とナイスミドルは続けた。

転院を決めた今、今更ながらの初登場であるナイスミドルにはすごく興味がない。

そして、人に気に入られようとするその”さわやかさ”に気持ち悪さを覚えた僕は「誰、お前?」と思わず言いそうになったが、懸命にこらえた。(失礼!)

後ろのY医師がなにやらナイスミドルに耳打ちをした。

「今日T病院のセカンドオピニオン受けて来たんだー。僕もねあそこの先生いろいろ知っているんだー。どうだった?」とナイスミドル。

「なんか手術できるかもしれないというようなことをおっしゃられてました。」と、Y医師にまだ伝えていなかった後ろめたさから、曖昧に答えた。

ナイスミドルは「そうなんだー、でもあまり無理しないほうが#$%&?#@”」みたいなことを言い、少しパーマを当てたさわやかな髪の毛を跳ねさせながら病室を出ていった。

中身のない儀式であった。

ただ、Y医師はびっくりしたであろう。それも当然である。僕もできれば主治医に先に話したかったが、突然訪れた回診時に嘘をつくわけにもいかなかったのだ。

Y医師とT医師が回診が終わって間もなく僕の病室へ飛んで来た。

「手術できるって!?」Y医師の第一声である。

「はい、十二指腸に浸潤しているかもしれないけど浸潤している部分だけを切除して、患部を切除できると聞きました。」と僕は答えた。

Y医師は、相変わらずの無表情の中にほんの少しだけの喜びを見せた。やはり彼は患者思いのいい人なんだな、会話中の99.9%無表情だけど。

「なるほど、十二指腸の部分をこそげとる感じか」Y医師はつぶやいた。

僕は転院のことを告げ、改めて紹介状の準備をお願いした。

Y医師は無表情で快諾してくれた。

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