町医者の限界:後編

そして10月18日。血液検査でついに炎症反応を表すCRPが9を超えた。9月中旬の結果では1程度であったものが、9倍になったのである。詳しいことはわからなかったが、どうやら少しまずい状況であることはS医師の表情からうかがうことができた。そして、S医師から大学病院での検査の提案があった。この1ヶ月間、病院に行く回数も増え仕事に支障が出始めていたので僕は二つ返事でそれを受けた。

結局その後、大腸がんだったってことがわかったんだけど、今回の件は町医者の限界を強く感じた出来事だった。

2ヶ月もよく病気を治せない医者の元に通ったな、と思われる方がいると思うし、それは当然だと思う。

当時僕は町医者を過信しすぎていたと思う。でも僕も何も考えず通い続けたわけじゃなくて、僕なりに調べてみてS医師はやっぱり消化器のプロだったし、その人が大腸がんの可能性は否定していたから大学病院というところまで頭がまわらなかった。いつか治るだろうって、その程度だった。

そして、実はS医師の元に通いながら、いつも何かあると通っていたA医師の元にも行ってみていた。還暦を少し超えた程度のベテランであるA医師は、自分の元に先にこなかったことにヘソを曲げていた。お盆に空いている病院がS医師のところしかなかった旨を話しても怒りが治らない様子で、すごく面倒だったが、最終的には和解し診断をくれた。

大腸がんはこの歳でありえない、憩室炎だ、とのことだった。そしてS医師は消化器のプロなのでそのまま治療を続けることも勧められた。なのでやはりS医師で間違い無いんだとその時も思った。

ただ、2つの障害があった。

1つめは、A医師もS医師も端から大腸がんを除外して診断していたこと。A医師は、年齢から考えるとありえないということを断言していた。S医師もおそらく同じ考えだったのだろう。

なぜならもし大腸がんの可能性を考えていたら、通院中何回もしていた血液検査で大腸がんの有無がある程度の精度で分かる腫瘍マーカーのひとつ、CEAも計測していたと思う。残念ながら今手元に残っている血液検査の結果を読み返してもCEA項目は空白だった。

無理もない、30-34歳での大腸がん罹患率はその年齢層の中の0.4%程度*。科学者である西洋医学の医師が、ほぼありえない確率を除外して診断することはありえてしまうと思う。

そして2つめは、これこそが町医者の限界なのだが、彼らは十分な検査を行わないまま診断を下さないといけないことがある、ということだ。

S医師は優秀な方だったと思う、少なくとも患者に対する思いやり真摯な姿勢は素晴らしいと感じた。だけど僕のがんを発見するには超音波検査とレントゲンだけでは難しかった。内視鏡の設備はあったけど、炎症のある大腸に内視鏡を突っ込むことは原則行わないらしかった。CTがあればS医師はさすがに大腸がんを疑ったであろう。でもCTのような高価な機器は大きな病院にしかない。

だから小さな病院の医師たちは、自分たちの経験と自分たちの持てる検査機器のみで、診断を下さないといけない。更にもう少し主観を挟みこむと、立場上”診断を決断”せざるを得ない、と僕は感じた。

例えばA医師は憩室炎の診断を言い切った、しかし憩室炎を裏付ける証拠は状況証拠である症状のみで、実際に100%の証拠があるわけではない。同じような症状であれば他の病気もありえたかもしれないし、事実そうであった。

患者を納得させるため、安心を与えるため、いろいろ理由はあるだろうが、町の医師は自分たちの経験と手元にある情報で診断を下さないといけない、それが仕事だから。でもそこには限界がある。

S医師は大腸がんの可能性を除外していたものの、虫垂炎、憩室炎、腸炎、と言ったあらゆる可能性を限りある情報の中から探っていたように思う。そのいくつかの可能性を同時に探ってうーんうーんと唸っていた、今考えると正直な対応だったのかなと思うことはある。

最後に、僕はS医師やA医師に対して何か恨みがあるわけではないことを言っておきたい。これは今生きてるから言えるわけではないと思っている。入院中死に怯えていた時も彼らに対して怒りがこみ上げたことはない。

多分、どこにでもある”そういうシステム”の一つだって感じていて、彼ら個人の問題ではないからだと思う。だけど、もう同じような失敗をしたくないし、これを読んだ皆さんには僕と同じような失敗を繰り返さないようにして欲しいなと思う。

かかりつけの医師だろうが何だろうが、町のクリニックで何回か診てもらって症状が改善しないようであれば自分の判断ででもすぐに紹介状を書いてもらって大きな病院へ行く、これはやっぱり重要なのかなと思うし、それを嫌がらない身近な医師と付き合いをしていきたいと僕は思う。

*国立がん研究センター ガン情報サービスから算出 http://ganjoho.jp/reg_stat/index.html

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